研究の背景・目的・作業経過

 ローマクラブ報告で有名になった「成長の限界」やその20年後の「限界を越えて」(Meadows 1974, 1992)など,現代の地球社会を対象としたワールドモデルの開発・研究は,すでに一定の成果を挙げている。 とりわけ,そのベースとなったSD手法は, 複雑なフィ−ドバックル−プを持つ時系列システムの記述に優れており,また,従来のシミュレーション言語DYNAMOに加え,新たにSTELLAが登場したことにより,パーソナル・コンピュータ上で自由に作業ができるようになっている。

 そこで,このSD手法を用い(Forrester,1973)らが開発したワールドモデルを先史時代へタイムスリップさせ,人類が狩猟採集社会から農耕定住社会へと移行した段階の歴史的変化について様々な仮説のシミュレーションを行い,それらの論理的整合性を検証することが可能なのではないかと考えた。

 このため,本研究では,まずワールドモデル(World3)の構造を分析し,先史時代にそのまま応用できる部分の抽出を行なった。次に狩猟採集社会から農耕定住社会への移行に関する考古学・人類学関係の仮説を調べ,初期条件やシステムの構造を考え,プロトタイプ・モデルの作成を 行った。狩猟採集モデル,農耕モデル,両者の合成モデル, (Hassan 1981) に沿った改良モデルなどを開発し,その成果を『考古学における計量分析ー計量考古学への道(V)』(95年10月: 文部省統計数理研究所),『シンポジウムー人文科学における数量的分析』(96年3月: 同所),『第1回 日本情報考古学会』(96年3月:帝塚山大学)において発表した。 現在,シミュレーション結果の評価やさらに必要とされるデータについての検討などを行っている段階にある。

 また,現代のワールドモデルが社会学者,経済学者,環境科学者,システム分析家など,様々な研究領域にわたる学際的協力によりなされたことを考え,本研究では,次の段階として,これらプロトタイプ・モデルに関する情報をコンピュータ・ネットワーク上で公開し,多くの専門家の助言と指導,開発への参加を呼びかけることを計画している。